2018年5月、はしかの流行がニュースを賑わせました。
はしかと言えば子どもの病気…と思いがちですが、抗体がなければ大人も感染します。
特に免疫力の低い人や妊婦さんは、重症化するケースもあり注意が必要なのです。
はしかってどんな病気?
はしかとは、「麻疹ウイルス」が体内に侵入する事で起こる感染症です。
感染力が非常に高く、感染した人がはしかに対する免疫(抵抗力)を持っていない場合、ほぼ100%の確立で発症します。
感染?発症?何が違う??
ウイルスや細菌などの病気の元になる微生物が、私たちのカラダの中に入って増殖することを「感染」と言います。
更に、そのウイルスや細菌によって発熱や炎症などの反応が引き起こされた状態を「発病」と言います。
つまりウイルスが体の中に入って増殖しても、抗体があれば免疫による防御機構が働き、発病することはありません。
この抗体こそ、今回のお話のキーワードです。
自然抗体と免疫抗体のハナシ
実際にはしかに感染し、体内にできる抗体を「自然抗体」と言います。
この自然抗体は長きに渡って働き続け、私たちのカラダを病原体から守ってくれます。
現在50代より上くらいの年代は、子どもの頃に当たり前のようにはしかにかかった人が多いので、自然抗体がつきました。
その後、はしかの流行を抑えるために予防接種が義務付けられ、これによりはしかにかかる人は激減、私たちは麻疹ウイルスに晒されることがなくなりました。
このように予防接種によって得られる抗体のことを「免疫抗体」と言います。
免疫抗体は接種後速やかに体内で働き、私たちを病原体から守ってくれますが、自然抗体ほど長く作用しません。
体内の抗体が減ってきても、自然界の中で病原体に晒されれば再び抗体が増えて、私たちの体を守ってくれる「ブースター効果」があります。
しかし予防接種の普及により、いわゆる「野生の麻疹ウイルス」はほとんどいなくなりました。
病原体(抗原)に晒されないということは、一見良いこととのように思えますが、それはブースター効果の機会を失うことでもあるのです。
はしかの輸出国から輸入国へ
今の若い世代は、2回の予防接種が義務付けられたため、しっかりと抗体を持っている人が多いのですが、2017年の調査では18歳〜40歳のいわゆる中間世代は抗体価が不十分な可能性があると言われています。
こんなような理由から、50代以下の年代の特に働き盛りの人たちが、いまはしかを発症し、感染が拡大しているのです。
2007年、国内ではしかが流行し、日本の対策後進国ぶりに世界から「日本ははしかの輸出国だ」と言われるようになりました。
その後、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)が定期接種化してからは、国内での自然感染の患者が激減しましたが、海外で流行るタイプのウイルスが急増し、今度は「はしかの輸入国」になったのです。
妊婦さんの感染、なぜ怖い?
妊娠中は免疫力が下がることが知られています。
これは、体内に宿る胎児を異物として認識しないようにする為や、妊娠によりホルモン動態が大きく変化する為など、様々な理由があります。
このため妊娠中に感染症にかかると重症化しやすく、はしかも肺炎などを合併しやすいと言われています。
風疹とは異なり胎児奇形を起こすリスクは低いですが、羊水量の異常や胎児の発育異常に影響します。
また、母体がはしかにかかった場合、2週間以内に流早産となるリスクが高まります。
更に分娩直前に母体がはしかにかかった場合は分娩時に赤ちゃんに感染し、特に早産の赤ちゃんの場合、重症化する危険性があります。
こんな症状ははしかのサイン!
はしかは感染してから10日〜12日の潜伏期間があります。この間はほとんど無症状です。
潜伏期間ののち、初期症状として発熱、咳、喉の痛み、鼻水、目の充血、目ヤニなどの風邪の様な症状(カタル症状)が出現します。
これらのカタル症状が数日続いてから一旦熱が下がりますが、再び高熱となり同時に発疹が出始めます。
乳幼児では特に、発疹が出始める1〜2日前に消化器症状や口の中の白い斑点(コプリック斑)の出現が見られることが特徴的です。
その後発熱は3〜4日続き、発熱後10日程度で主症状は消失します。
感染力は潜伏期から発疹出現後4〜5日まで持続します。
麻疹の感染力は極めて強く、抗体のない集団の中に感染患者が1人いた場合、12人〜14人が感染すると言われています。
インフルエンザは1人〜2人程度ですから、その感染力の強さは明確です。
はしかの治療、感染時にしてはいけないこと
はしかには特別な治療方法はありません。熱や咳などの辛い症状に対して薬が処方されます。
肺炎や脳炎、中耳炎などの合併症があれば、それらに対しての治療が行われます。
はしかは「空気感染」をします。空気感染とは、はしかに感染した人と同じ空間にいるだけで感染することを意味します。
はしかの感染力は発熱や咳などの初期症状が出る1日前から解熱後3日まで続きます。
この為、はしかに感染していることを自覚せずに外出し、知らぬうちに濃厚接触をし、感染してしまうのです。
もし、身の回りにはしかを発症した人がいて、10日〜12日の潜伏期間中に接触したことがわかったら、潜伏期間が過ぎるまでは不特定多数の人が集まるイベントなどへの参加や公共交通機関の利用は控えましょう。
また妊娠中の人や赤ちゃん、お年寄りなど免疫力の低い人たちとの接触は避けてください。
症状がない潜伏期にも、麻疹ウイルスは強力な感染力を持つのです。
予防がイチバン!まずはかからないことが大切
産婦人科医学会によると、「はしかの抗体価が陽性」でありかつ「抗体価が十分であること」「MRワクチンなど、はしかの予防接種を1歳以上で2回受けた」ことがあれば、今回の妊娠ではしかにかかる可能性は極めて低いようです。
現在妊娠する前であるのなら、抗体価の検査もしくはワクチンの接種をオススメします。
産後であれば、授乳中であってもワクチン接種は可能です。
また、ママだけがかからなければ良いわけではありません。一緒に暮らしているパパも同時に予防することが大切です。
これははしかだけではなく、胎児奇形を引き起こす風疹についても言えることです。
抗体価検査と予防接種について知ろう!
はしかの予防接種は、日本では定期予防接種に指定されています。
はしかのワクチンおよび麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)は生ワクチンの為、妊娠中に打つことはできません。
またこのワクチンの接種後1ヶ月以内の妊娠には注意が必要とされています。
妊娠をしていないのであれば、周囲に感染者が出た場合、3日以内に予防接種を受けることで感染を防いだり、症状を軽くしたりすることができるようです。
はしかの抗体価は採血で調べることができます。料金は大体5000円程度で、検査機関にもよりますが、採血後1週間で結果がわかります。
子どもの頃に1度予防接種を行っている場合、抗体価が下がっていると予測して、抗体価を調べずに予防接種を受ける人もいますが、それでも特に問題はありません。
はしかの予防接種はクリニックなどでも受けることができますが、予約が必要な場合や在庫がない場合もある為、事前に問い合わせると確実です。
ワクチンの料金は年度によって異なりますが、大体6000円前後で受けられます。
予防接種、いつしよう?
最近何かと話題のはしかですが、決して他人事ではありません。
多くの人は妊娠初期の検査で、麻疹や風疹の抗体価が少ないことを知ります。
しかし、産後に予防接種をしようと思っていても、忙しさの中で後回しになりがちで、そのうちに…と思っているうちに次の妊娠が発覚することも少なくありません。
妊活中の方は妊娠する前できるだけ早く、また妊娠・産後の方は子どもの検診や予防接種のタイミングで、自分もワクチン接種を受けると良いでしょう。
はしかも風疹も、防ぐことのできる感染症です。きちんと予防すれば、大切な赤ちゃんを守ってあげることができます。
これは、自分の子どもだけではありません。
1人1人の意識が、これから生まれてくる多くの赤ちゃんを、はしかや風疹から守るのです。
今日のあなたの行動が、感染症の流行を防ぐのです。