入学を控える時期になると、我が子が小学校のお勉強についていけるのかどうかは、保護者としては気になりますよね。
特に、平仮名の読み書きや計算といった「お勉強」を取り入れていない園に子どもを通わせている保護者は、「園で習得している他の子と、差がつくのでは!?」と心配になる人もいるようです。
そこで今回は、元教員としての経験と知識を踏まえながら、園児のうちに取り組んでおきたい「お勉強」について解説したいと思います。
国語の勉強に備えよう!
「お勉強」と聞くと、平仮名の読み書きや、足し算や引き算などの計算を思い浮かべますが、こうした「お勉強」は園児のうちにどの程度できていればよいのでしょう。
まずは、小学校から始まる国語の勉強に関して、園児のうちに押さえておきたいポイントを2点紹介します。
ひらがなをすべて書ける必要はないが、読めるようにはしておこう!
入学までにすべての平仮名が書けるようになっている必要はありませんが、ひらがなやカタカナを読めるようにしておくことは大変重要です。
小学校での学習は教科書の内容が基本なので、文字が読めないと教科書の中身を理解するのにも時間がかかりますし、先生の板書(黒板に書く文字のこと)が読めないことで、行動が遅れてしまうかもしれません。
そこで、家庭でできる取り組みを2つ紹介します。
まずは、「絵本の読み聞かせ」です。
毎日忙しくてなかなか絵本を読んであげる暇がないという方もいると思いますが、就寝前やお休みの日など隙間の時間を見つけて、様々なジャンルの本を読んであげましょう。
もう1つは、「子どもが一人で絵本を声に出して読む機会を持つこと」です。
いつまでも親が絵本を読みあげていては、子ども自身の読む力はなかなか育ちません。
国語の授業でも、一斉に教科書を音読したり、一人ずつ音読したりする機会が多々あります。
子どもが年長くらいになれば、簡単な絵本からでかまわないので、文字を声に出して読むように促してみましょう。
なお、我が子は絵本に興味を示さないといった場合は、図鑑やゲームの攻略本でもかまわないので、自分から読もうとする姿勢を身につけさせることが大切です。
鉛筆や消しゴムの扱いには慣れておこう!
小学校入学を心待ちにしていた新1年生は、新しい文字を習うたびにどんどん吸収していくので、入学までにひらがなを全て書けるようになっている必要はありません。
ただし、文字を書けるようになるための土台は必要です。
土台とは、具体的に言うと「鉛筆や消しゴムの扱いに慣れること」です。
これは国語以外の教科にも当てはまることですが、小学校の机上の学習は「鉛筆と赤鉛筆」で文字を書くのが基本なので、入学までにクレヨンやペンしか使ったことがないようでは困ります。
そこで、家庭でお絵かき遊びをする際には、鉛筆や色鉛筆を使うように促しましょう。
平仮名の練習を無理にせずとも、ぬり絵や迷路、線つなぎなどの遊びが手首を細かく動かす練習になるので、後の文字の学習の土台になっていきます。
もちろん、子ども自身が「文字を書きたい!」と訴えた場合は、平仮名やカタカナを先取りして教えてもかまいません。
合わせて、鉛筆の正しい持ち方や消しゴムの使い方も教えてあげましょう。
ただし、子どもが自己流で文字を覚えてしまうと、書き順がめちゃくちゃになり後から修正するのが大変になることもあるので、注意が必要です。
算数の勉強に備えよう!
次に、算数について、入園前にやっておきたい勉強を紹介したいと思います。
平仮名がいくつか書けるようになると、つい数字も書かせたくなりますが、数字を書く練習をする前にしてほしいお勉強が2つあります。
具体物を使って色々な「数の感覚」を磨いておこう!
1つは、子どもの目の前にある具体物を使って「数の感覚」を磨くことです。
例えば、おうちで家族全員の体重を測って比べてみたり、子どもと料理をしながら一緒に大さじ2をはかってみたり、お風呂で形の違う容器に入った水の量や重さを比べたりなど、身の回りには「数の感覚」を磨くチャンスがたくさん転がっています。
こうして数を測ったり比べたりする実体験をたくさん積めば積むほど、実際に紙の上で計算をする際に経験で感じた数量感を思い出すことができ、スムーズに算数の学習内容に入っていけるでしょう。
10以下の数を見ただけで認識できるように鍛えよう!
もう1つ身に付けておきたい感覚は、10以下の数をパッと見ただけでいくつあるかを認識できる感覚です。
とりわけ、「5」という固まりを認識する力は大変重要です。
例えば、2(■■)+3(■■■)=5(■■■■■)という計算をする場合、■が5つ並んでいるだけで「5個ある」と認識できる子と、■を1つ1つ左から順に「1,2,3,4,5」と数えなければ5つあることが認識できない子とでは、計算スピードが明らかに異なります。
別に一つひとつ数えることが悪いことではありませんが、繰り上がりになるとさらに大変になるのです。
例えば、6+8=14という計算式の場合、1,2,3…と14まで数えていると、指も足りなくなるし時間も掛かる上、数え間違いも起きやすくなります。
一方、6や8という数を感覚的に(5+1)と(5+3)と捉えることができれば、5+5=10と1+3=4を合わせて14というように、すんなり答えを導くことができます。
余談ですが、10以上の大きい数については、お金を使った学習が最適です。
子どもはお金が大好きなので、10円玉が5枚で50円玉になる、50円玉が2枚で100円といった感覚は、後の「大きい数」の学習で活きてきます。
「聞く力」と「話す力」も身に付けよう!
これは全ての教科に言えることですが、「先生や友達の話をしっかり聞けること」と「自分の意見や気持ちを相手に伝わるように話せること」は、大変重要です。
ここでは、こうした「聞く力」や「話す力」を身に付けるために家庭でできる工夫を紹介しましょう。
「聞く姿勢」は親がお手本!?
普段は子どもと何気なく会話をしていると思いますが、改めて親が離しているときの子どもの姿勢に注目してみましょう。
親の目を見ていなかったり、話しの最中もオモチャを持つ手が動いていたりすると、大切な話が子どもの頭に入っているか心配になりますよね。
そこで、入学までに少しずつで良いので、誰かの話を聞く際の正しい姿勢やマナーを教えてあげましょう。
例
- 話を聞くときは相手の目を見る
- 姿勢を正す(足を床につけ、背筋を伸ばす)
- 手を止める(オモチャなどを持っていれば脇に置き、手が動いてしまうようであれば膝の上へ手を置く)
こうした基本的な「話を聞く姿勢」は、目で見て理解するのが一番です。
つまり、子どもが親に話しかけてきた時に家事をしながら聞き流すのではなく、「家事の手を止め、子に向き合って目を合わせ、姿勢を正しウンウンとうなずきながら聞く」という姿勢を見せることが、いちばんの「お手本」になります。
短絡的な会話に注意!気持ちを正確に伝える練習をしよう
教室では、友達同士はもちろん、教師と児童との間でも短い言葉だけでやりとりする場面がよく見られました。
特に教師の目が届きにくい休憩時間には、友達間の会話で言葉が足りなかったことで喧嘩やトラブルになることも多かったので、自分の考えや気持ちを正確に伝えられることは大変重要です。
家庭の中で、子どもから「お茶!」といった短い言葉を投げつけられたことはありませんか。
このような場合、以下のような切り返しをすることで子どもの正確な気持ちや言葉を引き出すことができます。
食事中の例
子「お母さん、お茶!」
親「お母さんは、お茶ではありません」
子「・・・お茶ください」
これだけでも良いですし、「なぜお茶が飲みたいの」と尋ねれば「喉が渇いているから」とか「おかずが辛かったから」というように、より豊かに言葉を引き出すことができます。
車中での例
子「お母さん、ゴミ!」
母「お母さんは、ゴミではありません」
子「お母さん、お菓子のゴミどうすればいいの」
母「捨ててくださいって言えばもらうよ」
子「ゴミ捨ててください」
「ゴミ!」と言われて無意識に捨てることは簡単ですが、小さなお菓子のゴミひとつをとっても、人へ頼み事をする際のマナーを教えるチャンスになるのです。
主語、述語や時系列に気を付けて話す練習をしよう!
上記の例と重複しますが、園児のうちは子どもの話し方はまだまだたどたどしく、情報が足りないことが多くあります。
そのため、子どもが話す内容で足りない部分があると感じたら、「いつ」「誰が」「どこで」「誰と」「何をしたのか」を聞き返して補ってあげましょう。
しかし、忙しくていちいち聞き返してられないという人もいると思います。
その場合は、短時間でもいいので子どもとしっかり向き合って子どもの話を聞くことを優先してください。
勉強の基礎となる「好奇心」「探求心」を育てよう!
最後に、生活科の観点から入学前に押さえておきたいお勉強を2点紹介したいと思います。
1年生の生活科の目標は、「身近な人々、社会や自然とのかかわりに関心をもって自分自身や自分の生活について考え、生活に必要な習慣や技能を身に付ける」とあります。
こうした目標を達成するためには、家庭でどのような準備ができるでしょうか。
時間の感覚を身に付けておく
小学校の入学準備の記事でも触れましたが、「入学前に時計を読めるようにしておくこと」は大変重要です。
小学校は分単位で授業や休み時間が厳しく分けられているので、時計が読めなければ「いつ授業が終わるのか」もわからないし、「休み時間に何時に校庭から教室に戻ればよいか」がわかりません。
また、先生から「休み時間は10分です」と言われた際に「10分がどれくらいなのか」という「時間の感覚を身に付けておくこと」も大切です。
他にも、「ちょっと待っていてね」と待機を指示された場合に、「ちょっと」が10秒なのか2,3分なのか、そういう微細な時間の感覚を持っているといないとでは行動に差がついてきます。
家庭では朝の身支度やお風呂から就寝までの流れの中で時計を見る機会が多いので、「何分までに着替えよう」「何分以内にこれをしよう」というように時計を生活に組み込む習慣をつけておきましょう。
実体験を積むことで、子どもの興味関心を育てよう!
生活科の目標にあるように、机の上での学習に捉われることなく、公園で自然に触れたり、友達と遊んだり、親と買い物をしたりといった経験を積むことは大切です。
特に、子どもは自分が「面白い!」と感じた遊びについてはものすごい集中力を発揮します。
そんな時、「遊んでばかりいないで勉強しなさい」と遮るのではなく、まずは子どもの興味関心にとことん寄り添ってみましょう。
興味関心を深く掘り下げるために、お休みの日に公園や図書館、児童館、教育文化センター、動物園、水族館、博物館、科学館などを利用し、子どもに色々な経験をさせていきます。
すると、子どもの中で「★★についてもっと知りたい!」という「好奇心」や「探求心」が生まれ、勉強に積極的に取り組む姿勢につながっていくのです。
人と関わることも立派なお勉強!
今回は入学までに取り組んでおきたい勉強についてまとめました。
一方で、「挨拶をきちんとする」とか「お友達と仲良く過ごす」といった「人付き合い」も、立派なお勉強と言えるのではないでしょうか。
例えば、「こんにちは」「いただきます」「ありがとう」「ごめんなさい」といった基本の挨拶は、小学生よりも素直な園児の方が身に付けやすいものです。
また、お友達と喧嘩をしながらも、互いの気持ちを話し合って仲直りし、楽しく過ごせるという経験は、小学校生活はもちろん社会に出てからも役立ちます。
お勉強はできるに越したことはありませんが、そればかりに注力するのではなく、人との関わり方についても学ぶ機会を持つようにしましょう。