【プロ執筆】産後に母乳が出ない!その原因・理由とカンタン自宅ケアを紹介

母乳を出す「オキシトシン」というホルモンは「幸せホルモン」の別名でも知られています。

「授乳中に我が子への愛情が増す」我々のDNAはそういう風に作られています。

けれど「母乳が出ない」という問題はママにとって不安でしかありません。

本来、母乳育児は大変なものでも辛いものでもなく、楽しいものなのです。

正しい母乳育児の知識を身につけて、ラクして楽しい母乳育児をしてみませんか。

時期によって原因が違う?!母乳が出ない理由

母乳はどんなタイミングで作られ、出始めると思いますか?

妊娠中から母乳を作るための乳腺が発達し、母乳が出る人もいます。

けれど出産後から、ジャージャーと蛇口をひねったように母乳が出る訳ではありません。

出産後のママは幾つかのプロセスを踏んで、母乳が出る体へと変化していくのです。

産後すぐに母乳が出ないワケ

産後すぐに母乳が出ないワケ

おっぱいは妊娠中から発達した乳腺組織(おっぱい工場)で血液を材料に作られます。

妊娠中には胎盤から出るプロゲステロンというホルモンが、母乳が出るのを抑えています。

出産が終わり、胎盤が体の外に出るとプロゲステロンによる抑制がなくなり、いよいよ赤ちゃんのために母乳が出るようになるのです。

張っているのに母乳が出ない?!

出産後、おっぱい工場に母乳の原料となる血液が大量に運び込まれますが、まだ工場がしっかりと稼働していない状態ですので、母乳の生産が間に合いません。

このため、おっぱいの中では材料である血液が滞り、うっ血した状態になります。

これが産後の「おっぱいが張っている割に出ない」状態です。

張っているのに飲んでくれない、飲ませても楽にならない、人によっては寝返りが打てないくらいおっぱいが張る人もいます。

「こんな状態、いつまで続くのかな…」と心配になるかもしれません。

でも大丈夫。その張りは、おっぱい工場が正常に稼働しているプロセスなのです。

少しでも効果絶大!初乳パワー

産後すぐの母乳の分泌はわずかです。

ですが、この時期の黄色くて粘り気のある母乳は「初乳」と言って、栄養価と免疫力に富んだ、ママから赤ちゃんにあげられる最高のプレゼントです。

この初乳はごくわずかでも、赤ちゃんにとって吸収されやすい成分でできています。

たった1滴でも、赤ちゃんの腸をコーティングし、免疫力の弱い赤ちゃんを外からの雑菌から守ってくれます。

これは赤ちゃんの時だけでなく、腸内環境の礎となり、大きくなってからもその威力を発揮すると言われています。

滲むくらいのおっぱい…赤ちゃんのお腹が空かないか心配…

おっぱい工場の稼働が軌道になるまで、早い人で3〜4日、人によれば1週間、2週間とかかる人もいます。

もちろん、赤ちゃんの生まれた週数、体重、健康状態によってはミルクを足してあげなくてはいけない子もいます。

けれど多くの赤ちゃんは、ママのお腹の中でお弁当と水筒を蓄えて出てきます。

また生まれてすぐの赤ちゃんの胃はとてもとても小さく、1回に飲む量は10cc程度です。

なので、ママのおっぱい工場がしっかり稼働して母乳が出るようになるまで、赤ちゃんは待つことができるのです。

赤ちゃんとの生活がスタート!多くのママが感じる「母乳不足感」

赤ちゃんとの生活がスタート!多くのママが感じる「母乳不足感」

母乳相談室で多くのママが「おっぱいが足りているか心配」と話します。

けれど、大抵の場合足りていることの方が多いのです。

「母乳不足」と「母乳不足感」は違うのです。

なぜおっぱいが足りてないのでないか、と感じるのでしょうか。

おっぱいが張ってなくても大丈夫!?

1つは、入院中は母乳が溜まってくると張っていたおっぱいが張らなくなるためです。

張ることで「おっぱいが作られている!」と認識していたカラダのサインがなくなってしまうので不安になるママも多いようです。

大丈夫、これはおっぱい工場の需要と供給のバランスが取れてきた証拠です。

母乳の後にミルクをよく飲むのは、足りてない証拠?

生後3ヶ月未満の赤ちゃんは、まだ満腹中枢が未熟です。

唯一の満腹中枢を刺激する要素は、母乳中の脂肪成分と言われています。

母乳は、最初は水分と糖分が多くサラサラしていて、吸い続けるうちに脂肪成分が多いクリーミーな母乳に変化します。

まるでスープやサラダから始まり、メインディッシュのお肉を食べるフルコースのようですよね。

脂肪の濃さによる味の変化を感じて、赤ちゃんは母乳を飲むのをやめます。

けれど、ミルクでは常に濃度が一定です。赤ちゃんは体力の続く限り飲み続けます。

なので、おっぱいの後に泣いてミルクを良く飲むからと言って、母乳が足りていないわけではないのです。

ミルクだとよく寝る?

「母乳を飲んだ後はぐずるのに、ミルクを飲んだ後はよく寝てくれる」こんな声もよく聞きます。

けれど赤ちゃんの眠りは、その8割がレム睡眠(浅い眠り)です。

寝たと思って横にされると起きて、ぐっすり眠らないのが普通なのです。

大人もお腹いっぱい食べると眠くなりますが、ミルクを飲んだ後にぐっすりと眠っているように見えるのは、気を失っているという表現が近いかもしれません。

母乳を飲んだ後にすぐ寝ないことは、決して母乳が足りていないわけではないのです。

周りからの「足りてないのでは?」という余計な一言!

昭和40年代後半以降に育児をした世代の多くは、ミルクで子育てを行なっていました。

ちょうどその世代が、今のおばあちゃん世代です。

ミルクをたっぷり飲ませてよく寝る赤ちゃんを育てたため、母乳を飲んだ後に泣いていると「かわいそう」とか「足りないのでは?」と思うようです。

育児の大ベテランやキーパーソンである自分の母親やお姑さんから、「母乳が足りてない」と言われ続け、不安になりミルクを足しているケースも多くあります。

育児の方法は時代と共に変わります。自分の母親やお姑さんのやってきた育児を否定する必要はありません。

けれど正しいことを知っていれば、周りの言葉に惑わされることもありません。

母乳を出すためにお家でできること

「吸う」から出る「母乳」

「吸う」から出る「母乳」

赤ちゃんがママのおっぱいを吸うことで、プロラクチンというホルモンが働きます。

これにより「おっぱいを作れ」という指令が出ます。

プロラクチンというホルモンが出ると、次にオキシトシンというホルモンが出ます。

これにより「おっぱいを出せ」という指令が出ます。

このプロラクチンとオキシトシンというホルモンの作用により母乳が出ます。

そのスイッチを入れるのは他でもなく「赤ちゃんがおっぱいを吸う」ということなのです。

科学的に、母乳量の分泌をあげるためには1日少なくとも8回以上、できれば10回以上の授乳による刺激が必要とされています。

すでに母乳が出ている人でさえ、その分泌を維持するためには1日7回以上の刺激が必要と言われています。

母乳を出すために大切なことは、体質でもマッサージでもなく、まず頻回に吸ってもらうことなのです。

赤ちゃんとママが「楽な姿勢」であること

赤ちゃんとママが「楽な姿勢」であること

ところが、赤ちゃんにただ吸ってもらえばいいわけではありません。

しっかりと深く吸い付いてもらわないと、刺激にならないだけでなく、乳首に傷ができるなどのトラブルの元になります。

これには正しい姿勢で授乳をすることが大切です。

ママが一生懸命前傾姿勢になったり、赤ちゃんの体が無理にねじれていたりしては深く吸い付かせることはできません。

大切なのは、赤ちゃんとママがいかに楽な姿勢で授乳をするか、なのです。

ゆったりと深く腰をかけ、背中は軽くもたれかかります。

赤ちゃんとママのお腹がしっかりと向き合い、赤ちゃんの体がまっすぐになるように抱っこします。

授乳中、肩や手、腰などいずれの部分も緊張させる必要はありません。力を抜いてリラックスできる姿勢がベストです。
もしどこかに力が入ってしまうなら、クッションや丸めたタオルなどを差し込んで完全に体を預けられるようにするといいでしょう。

体を冷やさないこと

ご存知の通り、おっぱいは血液が材料です。

体が冷えて血液の循環が悪ければ、母乳もうまく作られません。

足や腰、お腹周りが冷えている人、おっぱいが冷たい人は、冷たい飲み物を控え、産後1ヶ月経っているなら、しっかり湯船に浸かりましょう。

レッグウォーマーや腹巻を活用し、体を温めてあげましょう。

肩こりなども大敵です。

授乳中のママは、どうしても前のめりな姿勢になりがちです。

そうすると背中や首、肩の筋肉がガチガチに固くなり循環が悪くなります。

こういったコリをほぐしてあげることもまた、循環をよくして母乳の出を良くするために大切なことです。

食事、排泄、睡眠…ママが倒れたら出るものも出ません!

食事、排泄、睡眠…ママが倒れたら出るものも出ません!

授乳期間、ママは何かと自分を犠牲にしがちです。

ご飯は抱っこをしながら片手間に食べ、トイレも行きたいときに行けない、眠いのを我慢して授乳…。

赤ちゃんが小さい時、ママが大変なのは、人間が最低限生きていくのに必要な営みの領域すら犠牲にしながら頑張らなくてはいけないことが多いためです。

「自分が頑張らなくちゃ」「自分のことは後回しで大丈夫」多くのママがそんな風に思いながら、自分の体のことは二の次で今日も育児を頑張っていることでしょう。

でも本当にそうでしょうか?ママが倒れてしまっては、文字通り元も子もないのです。

そんなこと言っても…という家庭も多いはず。

けれど、大切なチームメイトを忘れてはいませんか?

そうです、パパの存在です。

母乳育児にパパは参加できない?そんなことはありません!

母乳育児にパパは参加できない?そんなことはありません!

良く両親学級で「子どもが産まれたあと、どのようにママをサポートしたらいいのかわからない」という質問を聞きます。

子どもを産む前はママも、どういったサポートをパパにして欲しいか具体的には思い浮かばないのです。

「おっぱいをあげる」ということは、ある種ママの専売特許です。

けれど、パパがママと赤ちゃんのためにできることは山ほどあるのです。

母乳育児には周りの理解とサポートがとっても大切!

  • ママがしっかりとご飯を食べる時間を確保してあげること。
  • ママがトイレに行きたいときにゆっくりと行けるようにしてあげること。
  • 1日1回30分でもママが1人でホッとしてゆっくりと湯船に浸かる時間を確保してあげること。
  • 授乳後の寝かしつけを引き受けて、授乳が終わったらママが休めるようにしてあげること。

パパも日中仕事をしていますから、全部できる必要はありません。

ただ、「1人だったら当たり前のようにできること」をサポートしてあげることこそが、母乳育児をママが楽に続けられる最大のポイントなのです。

これは、パパの理解とサポートなくしては成し得ません。

母乳をあげること以外、赤ちゃんのお世話でママでなくてはいけない事など何一つありません。

慣れないうちは誰だって泣かれます。

でもママも同じように泣かれながら、できるようになったのです。

パパにできないはずは、ありません。

実は妊娠中からのセルフケアも大切!

実は妊娠中からのセルフケアも大切!

もし、今まさに妊娠中の方であるならば、ぜひ妊娠中からおっぱいのケアを始めることをお勧めします。

妊娠中からおっぱいの基底部や背中の肩甲骨をよく動かし循環を良くしておくことは、産後のおっぱいの血液循環のトレーニングになるのです。

産後のおっぱいが楽になる?妊娠中のセルフケアのススメ

妊娠中のケアは、安定期に入った16週から始めます。

切迫流産や切迫早産などのリスクがある人は、正期産に入る36週から始めましょう。

痛くない程度に優しく乳輪部が柔らかくなるようにマッサージし、乳首の先に乳カスが付いているようならベビーオイルなどでふやかして取っておきましょう。

陥没乳頭や短い乳首の人は授乳が難しいと言われがちですが、授乳の可否は乳首の形ではなく、乳輪の伸びやすさだと言われています。

つまり陥没している人も、乳輪が柔らかくお餅のように伸びれば直接母乳は可能なのです。

妊娠中もおっぱいは触って大丈夫です

乳首を刺激するとオキシトシンというホルモンの作用によりお腹が張ります。

これは産後、赤ちゃんがママのおっぱいを吸うことで子宮が収縮し、子宮の戻りを早めてくれるという効果があります。

しかし妊娠中に子宮が収縮しては大変です。

妊娠中のケアは乳首を触る必要はありません。

また、乳輪やおっぱい自体を触ることではお腹が張ることはありません。

最初は硬いことが多いので、毎日時間をかけてゆっくりと柔らかくします。

皮膚がまだ弱く敏感なため、痛くない強さで続けましょう。

大切なのは「私のおっぱいはちゃんと出る!」と信じてケアをする事です。

正しい情報と信頼できるサポーターと繋がりましょう

正しい情報と信頼できるサポーターと繋がりましょう

出産後のママたちと話していると「母乳って、もっとカンタンに出るのだと思っていました」「こんなにオッパイで苦労するとは思ってなかった」という声をよく聞きます。

また妊娠中のママたちに母乳育児のイメージを聞くと「眠れなくて大変」とか「痛い」とか非常にネガティブなワードがたくさん飛び出します。

確かに、母乳育児で非常に苦労される方もいます。

けれど本当にそうなのでしょうか?授乳はママにとっても赤ちゃんにとっても、本来は至福の時なのです。

まずは身近なところから、自分の母乳育児を応援してくれるサポーターを作りましょう。

それはパパであり、実のお母さんやお姑さんかもしれません。

しかし、必ずしも身の回りの人たちが自分をサポートしてくれるわけではないし、正しい情報をくれるわけではありません。

ましてやインターネットでは、どれが正しい情報なのかわからないことも多いでしょう。

大切なのは、自分が信頼できる専門家やサポーターと繋がることです。

地域には必ず助産師がいます。多くの助産院でもおっぱいについての相談に乗ってくれます。

また「ラ・レーチェ・リーグ」などの母乳育児をサポートしてくれる団体もあります。

母乳育児を成功させるための10ヶ条を尊守する「赤ちゃんに優しい病院(Baby Friendly Hospital)」というものもあります。

自分が頑張ればいい、踏ん張ればいいわけではありません。

母乳育児には良き理解者とサポーターが必要です。

もしあなたが今、母乳育児に不安を抱いて疲れているのなら、肩の力を抜いて楽しく楽に母乳育児をする方法を、専門家と一緒に模索してみませんか。

ママが母乳育児を続けたいと思う限り、必ず味方をしてくれる人がいることを忘れないでください。

まい/助産師

大学病院、総合病院、助産院と幅広い現場で助産師として従事。
妊娠期の指導から産後ケアまで、多くの妊産婦と赤ちゃんのサポートを行う。