全国に約700万人いる小学生のうち、小学校受験をして私立小学校や国立小学校に通う小学生は、全体の1.7%、約12万人に過ぎません。
人数が少ないことで受験に関する情報もあまり出回らず、「お受験」という言葉がひとり歩きしているイメージがありますが、実際のところはどうなのでしょう。
今回は、小学校受験のデメリットやメリットに着目し、中学受験とも比較しながらその必要性について考えました。
小学校受験が増加した背景にあるものは?
小学校受験は「お受験」と呼ばれ、かつては「都会の高所得者層のうち、特に教育熱心な家庭のみが関わる別世界の話」というイメージがありました。
実際、私立小学校に通う子どもは小学生全体の1.1%、国立小学校はもっと少なく0.6%に過ぎません。(2010年文部科学省調べ)
しかし、これでも、90年代と比べると私立小学校に通う小学生の割合は約2倍に増加しているのです。
地元の公立小学校へ進学せずに、「お受験」する子どもがじわじわ増えている背景には、何があるのでしょう。
親の高学歴化と共働き世帯の増加
お受験する小学生が以前より増えている背景には、結婚や出産を経ても退職せずに職場復帰する女性が増え、共働き世帯が専業主婦家庭よりも増加したこと、また、親の高学歴化があります。
例えば、首都圏で人気の慶應義塾幼稚舎(私立小学校)では、合格者の約半数は共働き家庭だそうです。
共働きであれば、高額な私立小学校の学費も工面することができるでしょう。
また、両親の高学歴化により、公立小学校の学力の二極化を心配する親も多いようです。
以前、私が某公立小学校に勤めていた際も、クラス内の学力格差を肌に感じていました。
しかし、勉強につまずいている子を引き上げるのに必死で、「できる子をより伸ばす」という余裕はありませんでした。
地域の公立小学校がそういう状態であれば、「多少高額でも、よりよい教育を我が子に受けさせたい」と思うのは、自然なことではないでしょうか。
公立小学校の教員の質や子どもの雰囲気が心配!?
「小学校受験」を選んだ理由を知るために、「なぜ地元の公立小学校ではだめなのか」という点に注目してみましょう。
私が小学校教員として働いていた頃を思い返すと、教員によって力量に差があること、正直「ハズレだな」と感じる教員がいたことは否定できません。
ベテランの先生なのにクラス内で起こったいじめから目を背け、子どもたちを威圧して制御しようとしたものの、徐々に力を付けた子どもたちに反発されるようになり学級崩壊してしまった事例もありました。
小学生はまだ幼い部分もあるので、一人でも授業に集中しない子がいれば、簡単に私語や立ち歩きが他の子に波及して行き、担任教諭が特定の子の対応に追われている間に他の子どもたちが遊びだし、あっという間に学級崩壊するのです。
その点、私立小学校であれば、教員の採用審査が厳しく、何かあれば解雇されるリスクあるために、比較的「教員の質を維持しやすい」と言えます。
また、入学試験で「先生の話や指示を聞くことができる子どもかどうか」という点に重きを置いて合否を判断しているので、話が聞けない子のために学級崩壊する危険性は公立小学校より私立や国立小学校の方が低いと考えられます。
小学校受験のメリットを5つ紹介!
先ほど述べたように、私立や国立小学校は、公立小学校に比べると教員の質が維持しやすく、学級崩壊も送りにくいと考えられます。
しかし、私立・国立小学校には、まだまだメリットがあります。
様々な角度からそのメリットを5つ紹介したいと思います。
メリット1.理想的な教育環境が手に入る
公立小学校はクラス担任制なので、ひとりの担任教諭がほとんどの教科を教えていますが、私立小学校は教科ごとに担当教諭が変わる教科担任制をとっているところが多くあります。
算数であれば算数に詳しい先生が、英語であればネイティブの先生が授業を担当してくれるので、より高度で専門的な教育を受けることができるのです。
私が勤めていた公立学校でもネイティブの先生が英語の授業をしてくれることはありましたが、学年ごとに交代で回ってくるので、たまにしか回ってこない印象が強かったです。
ハード面としては、私立小学校は高額な学費を収めているだけあって建物自体が綺麗ですし、スポーツ施設等も充実しているという点も挙げられます。
メリット2.建学の精神に基づく個性豊かな独自の教育理念を持つ
また、どの私立・国立小学校も独自の教育理念を持っており、学力面だけでなく「心の教育」にも重点が置かれている点もメリットと言えます。
例えば、東京で人気の慶応幼稚舎であれば、福沢諭吉の教えに基づき「独立自尊」を実践できる人材を育成することを目指しています。
大阪にある城星学園であれば、創設者のドン・ボスコが提唱した「予防教育法」に基づき、子どもたちの中の愛情や道理に働きかけて「他人に優しく自分には正直に、根気よく最後まで取り組む子」を育てるとうたっています。
公立小学校よりも独特の雰囲気のある私立・国立小学校の方が、自分の子どもに合う学校を見つけることができるかもしれません。
メリット3.エスカレーター式に進学できる事がある
私立小学校、国立小学校に中高や中高大が併設されている場合、受験をパスしてエスカレーター式に進学できる場合があるのも大きなメリットです。
例えば、先ほど例に挙げた慶応幼稚舎(幼稚舎といっても小学校です)であれば、勉強面である程度のレベルをクリアしていれば、受験をパスしてエスカレーター式に大学まで進学することができます。
受験勉強をする必要がないため、自分のしたいことに専念できるのはありがたいですよね。
ただし、当然ですが、医学部など難易度の高い学部であればそう簡単には上がれませんし、進学に成績のボーダーラインを設けている学校もあるので、それ相応の成績を収める必要があるでしょう。
メリット4.価値観や家庭環境の似ている子ども・保護者が集まる
私立小学校は、公立の4.7倍もの学費がかかるため、必然的に似通った経済状況の家庭が集まることになります。
また、それぞれの私立・国立小学校の教育理念に共感した親子のみが受験するので、子ども同士、保護者同士の価値観が近くなるのも自然です。
さらに、入試の段階で学校側が「子どもが先生の指示を聞けるかどうか」や「親がモンスターペアレントでないか」を徹底してチェックしているので、安心して通わせることができます。
メリット5.「お受験」をきっかけに親子の絆が深まる
小学校受験では、子どもだけでなく親を対象とする面接試験もあり、親の教育方針が改めて問われる機会になります。
「お受験」はペーパー試験だけが全てではないので、勉強だけでなく、家事手伝いをさせて生活力をつけさせたり、季節の行事を家族で楽しんだりすることも必要です。
その中で、親は自分の教育方針を見つめ直し、「どんな子に育ってほしいのか」を改めて考え、明確にしていきます。
こうして親子が二人三脚で小学校受験に立ち向かうことで、親子の絆が深まるというメリットもあるのです。
小学校受験のデメリットを5つ紹介!
メリットがたくさんある一方で、高額な学費を納めなければならないなど、私立・国立小学校には、どうしても避けられないデメリットがあります。
一番わかりやすいデメリットはやはり経済面になりますが、他にも交通手段や近所のお友達ができないなど、合わせて5つを紹介します。
デメリット1.経済的な負担が大きい
なんといっても、私立・国立小学校を選んだ場合は、多額の学費や寄付金負担の納入は避けられません。
例えば、公立小学校の授業料は無料ですが、私立小学校は年間平均約46万円がかかります。
さらに、入学金やその他寄付金と呼ばれ学校納付金など合わせると年間約150万円かかるというデータもあり、公立小学校の約5倍の金額が払える経済的余裕が求められます。
デメリット2.通学に時間がかかる
当然ですが、私立小学校は各都道府県内でも数が限られているため、自宅から近いとは限りません。
中には小学校1年生のうちから定期券をランドセルにぶら下げ、バスや電車などの公共交通機関を乗り継いでいる子もいます。
小学校が遠いと、子どもが発熱した際や地震などの災害時のお迎えにどうしても時間がかかってしまうのが難点です。
デメリット3.近所に同校の友人が少ない
これは中学受験にも言えることですが、私立小学校に通うとどうしても自宅から遠くなることが多いため、最寄りの公立小学校に通うお友達と仲良くなりにくい傾向があります。
そのため、「地元の成人式に出ても知り合いが少ないから面白くない」という子もいるようです。
デメリット4.校風が合わない
親が主導して進学先の私立小学校を決め、いざ入学したとしても、子どもが成長するにつれて子どもの性格や好みがはっきりし、校風に合わなくなる可能性もあります。
私立小学校は独特の教育理念を打ち出しているので、子どもがそれに順応できなければかなり居心地が悪くなることも考えられます。
その場合は、無理をせずに公立へ転校することも視野に入れ、広い心で子どものことを一番に考えた選択をしましょう。
デメリット5.エスカレーター式にも定員・制限がある
先ほど例に挙げた慶應義塾幼稚舎のエスカレーター式進学ですが、誰もがすんなり大学に上がれるというわけではありません。
医学部などは特にレベルが高いため、相当勉強面で優秀でないと進学は難しくなります。
また、学部によって定員も決まっているため、結局慶應大学には進めずに他大学を受験するということもあるようです。
もちろん、エスカレーター式に上がれたとしても、進学先の大学に学びたい学部・学科があるとは限らないので、大きくなればなるほど子どもの希望に応じた柔軟な対応が必要になります。
小学校受験と中学校受験、ここが違う!
小学校受験を「お受験」と呼び高い受験倍率を勝ち抜いていく様子を見て、小学校受験を中学受験と混同している人もいるのではないでしょうか。
しかし、小学校受験は中学受験の小型版ではありませんので、これらには大きな違いがあるのです。
小学校受験は親主導、中学受験は子どもが主体!
「小学校受験」と「中学受験」を比較した際に、最初に際立つ違いは「受験に挑む親の姿勢」です。
まず、小学校受験に関しては、未就学の園児が「小学校を受験したい!」などと思いつくことはほぼないので、全面的に親主導で受験に取り組むことになります。
受験するか否かはもちろん、入塾や入試対策もほとんどが親の判断で決めることになるでしょう。
つまり、親が決めた事であっても子供に理由を説明し、幼児教室や面接練習などをきちんと一緒に行えるようにする必要があります。
一方、中学受験は、早ければ小学3年生頃から準備を開始しますが、子どもは成長し“自分の意思”を持っています。
そのため、親がまず中学受験の意義を説明した上で、通塾や日々のスケジュール管理などの協力体制についても確認し、子どもが本気で「中学受験したい」という気持ちにさせる必要があります。
受験理由や子どもの意思を曖昧にしたまま進めていくと、スランプや反抗期にぶつかった際に「親に無理やり受験させられている」という気持ちになり、勉強から逃げてしまうこともあるそうです。
そのため、中学受験においては最終的な判断は必ず子どもに委ねることが重要になります。
試験内容はこんなに違う!
また、当日の試験内容も大きく異なります。
中学受験は基本的に、当日のペーパー試験の結果でほぼ合否が決まるため、最も多く正解した人が合格する学力にシビアな世界です。
中には面接試験を取り入れている学校もあるようですが決して多くはなく、試験で高得点を取っていればよほどのことがない限り面接で落とされることはありません。
一方、小学校受験にも同様にペーパー試験がありますが、それ以外にも運動能力テストや絵画や工作、面接、行動観察などたくさんの試験項目があるため、筆記試験の結果が全てではありません。
むしろ、「行動観察」や「自由遊び」「集団行動テスト」などのウエイトが高いと言われています。
小学校受験は中学受験と違い、幼児教室などで「行動観察」や「絵画」など家庭だけではできない試験対策をする必要があるのです。
小学校受験は「親の試験」でもある!
先ほど当日の試験内容について触れましたが、当日の親の出番にも大きな違いがあります。
中学受験においては、日々の勉強はもちろん、当日の試験も子ども自身が頑張るしかなく、親が受験のためにできることには限界があります。
一方、小学校受験では、まず親が提出する「願書」の中身が厳しく審査され、子どもだけでなく両親を対象とする面接を行うなど、試験当日に親の出番があるのです。
親に対する面接では、志望理由をはじめ以下のような様々な質問がなされます。
- 育児でどんな事に気を付けましたか
- お子さんに身につけさせたい事はありますか
- 自学自習を習慣づけるにはどうしたら良いと思いますか
- お子さんが学校にいるときに災害が起きたらどうしますか
- お子さんがいじめにあったらどうしますか
- 価値観の違う保護者とは、どのようにすると上手くお付き合いができると思いますか
- お子さんには将来、どのようになって欲しいと考えていますか
- お子さんを褒め方(叱り方)はどのようにしていますか
- 自分の子供が自分達に似ているところはどこだと思いますか
- お父様・お母様のお仕事の内容を教えてください
私立小学校は、独自の教育理念を確実に実践するために、面接を通して家庭環境や両親の教育方針、その人柄までを厳しく審査し、学校の教育理念とのフィット感を調べているのです
それゆえに、小学校受験は「親の試験」とも呼ばれています。
小学校受験は子どもに合った「よりよい教育」を求められる!
小学校受験は、経済的負担が大きいデメリットは避けられませんが、私立・国立小学校の独自の教育理念は魅力的で、エスカレーター式に中高大へ上がれるメリットも捨てがたいです。
受験対策は親主導で共働き世帯にはなかなか大変ですが、ご家庭の教育方針を改めて夫婦で話し合ったり、休日を子どもと有意義に過ごしたりなど、家族の絆を深める良い機会と捉えることもできます。
小学校受験は、仮に不合格だったとしても、公立小学校に上がればいいだけなので、失敗を恐れずに取り組むことがでる唯一の受験です。
誰もが「お受験」をする必要はありませんが、地元の公立小学校に不安な点がある場合などは、子どもによりよい教育を与えるための選択肢の一つとして「小学校受験」を考えてみてはいかがでしょうか。