小学校教師の頃を振り返ると、ごく稀にですが困った要求や課題を突きつけてくる保護者に出会うことがありました。
例えば、「連絡帳に長文を書いて返信を要求する」といった小さめのものから、「給食費の未払い」「ネグレクト(育児放棄)」といった深刻な問題まで様々です。
保護者が先生との関係性、付き合い方を間違えると、業務に支障をきたす場合もあります。
そこで、今回は小学校教師時代の経験を中心に、保護者と先生の正しい付き合い方いついて解説します。
元小学校教師が語る!実在する困った保護者たち
まずは、私が小学校教諭時代に経験した、保護者からの困った要求やトラブルを紹介します。
これからお話することは、プライバシー保護のため多少内容を変えていますが、実際に経験したことで、誇張してはいません。
生活が苦しい様子もないのに、給食費を滞納する保護者
給食は、子どもたちの毎日の栄養を補うための大切なものです。
その大切な給食を作るための給食費を、「義務教育なのになんで支払わないといけないの」と言って支払わない保護者は実在します。
該当の保護者の子どもは、毎日清潔な服を着ているし文房具も豊富に持っており、特に生活に困窮しているようには見えませんでしたが、それでもなぜか給食費だけいつまでも未納なのです。
当時勤めていた学校では、給食費未納者に対するマニュアルが確立していなかったため、事務職員や担任、あるいは管理職の教頭などが放課後や空き時間に代わるがわる該当家庭を訪問し、給食費を振り込むよう声を掛けていました。
ちなみに、「平成28年度 学校給食費徴収状況の実態(文部科学省調べ)」によると、小学校における給食費未納者の割合は全体の0.8%だそうです。
仮に小学校の全校児童が600人だとすると、未納者は約4人もいる計算になります。
学校では、未納の児童だけ給食を抜きにするわけにもいかないので、結局はその費用を学校か行政が立て替えなければならず、大変迷惑な行為です。
ただし、自然災害や急なリストラ等により、家庭の経済状況が突如悪くなり、どうしても給食費が捻出できないといった場合は、事情を話せば支払を待ってもらえることもあります。
また、就学援助制度という、母子・父子家庭や生活保護世帯向けに通学用品費や給食費等を援助する制度もあるので、生活に苦しい場合はこうした制度の利用も視野にいれましょう。
子どもたちを取り巻く深刻な家庭の問題
子どもたちは、保護者のサポートがなければ順調に学校生活を送ることができません。
毎日の宿題は、保護者のチェックがなければ仕上がらないこともあるし、新しいノートや鉛筆も子どもだけでは用意できないでしょう。
しかし、こうした初歩的なサポート以前に、子どもが元気に学校へ通うための最低限のお世話ができない保護者がごくわずかですが存在するのです。
例えば、両親共早朝に出勤するため、子どもの登校時刻に親が不在になってしまう家庭では、子どもが自力で登校できずに遅刻したり、欠席したりすることが多くなり、不登校につながるケースがあります。
また、ある時は家庭訪問で家を訪ねても約束の時刻に保護者はおらず、目に飛び込んできたのは、床一面の洗濯物、家具にかかるクモの巣、流しに積み重なった黒ずんだ食器類だったということもありました。
後者の例は、明らかにネグレクト(育児放棄)と呼ばれる児童虐待なので、学校へ報告するのはもちろん、子ども家庭センターや児童相談所などの第三者機関と連携しながら対処することになります。
こうした例はまれですが、子どもたちが元気に毎日学校へ通うためには、保護者が子どもたちに早寝早起き、朝ごはん、歯磨きといった基本的な生活習慣を身に付けさせることが大切です。
その基本がどうしても無理な場合は、家族で問題を抱え込まずにぜひ学校へ相談して欲しいと思います。
即罪に解決するのは難しいですが、先生と保護者が互いに協力し合えば、解決へ向けて動き出せるはずです。
先生との距離感が近すぎる保護者とは?
先ほど挙げたネグレクトや給食費未納問題に比べれば小さなことかもしれませんが、積み重なれば先生の手をわずらわせることがあります。
例えば、連絡帳に関しては、以下のような使い方はオススメできません。
- 学年だよりを読めばわかることをいちいち連絡帳でたずねる
- 要件以外の文章が長い
- 友達とのトラブルなど込み入った相談を長文で書いてたずねる
- 先生からのお返事が短いと不満を言う(長文のお返事を期待している)
連絡帳は、あくまでも「欠席連絡」や「時間割、持ち物、宿題の確認」が主な利用法であって、長文を書くには適していません。
先生は昼休みの間も子どもたちと遊んだり教材の準備をしたりしているので、クラス全員の連絡帳にお返事を書く時間はなかなか取れないのです。
一方、電話でも、放課後の会議中などに「庭の鉢植えが近所の子に倒されたが、先生から指導してほしい」、「マンションの駐車場で子どもが遊んでいるから注意しに来てほしい」といった連絡が入ることがあります。
こうした放課後に起こる小さめのトラブルについては、できれば家庭や地域レベルで解決してほしいのが本音です。
連絡帳も含め、先生の業務に支障が出るような連絡はできるだけ控えましょう。
ただし、学校側は、保護者からの相談を受けた場合はどんな小さなトラブルであっても、情報に応じて子どもたちから事情を聞き出して指導したり、集会等で全校児童へ注意喚起を促したりと、きちんとした対応はするのでご安心ください。
先生との付き合い方、理想的な保護者像とは?
では、先生とうまく付き合っていくためには、保護者はどのような姿勢であるべきなのでしょうか。
ここでは、家庭が担うべき最低限の役割や先生との適切な連絡方法についてまとめました。
学校にはできない家庭の役割を認識しよう!
共働き家庭が専業主婦の家庭を大きく上回るようになった昨今では、学童保育事業の充実など学校側に求められるサービスは増えてきているのかもしれません。
しかし、家庭が背負うべき役割を学校がすべて補うことはできません。
例えば、朝は早起きし、朝ごはんを食させ学校に送り出す、宿題をチェックし、書類は期限までに提出、学用品を忘れずに持っていく、夜は明日に備えて早めに寝かせる、こういった子どもたちの基本的な生活習慣は、家庭の協力なくしては身に付きません。
給食についても、子どもたちが毎日の栄養を確保するために大切なものなので、費用を支払うことは当たり前のことです。
ましてや、ネグレクト(育児放棄)やDV(家庭内暴力)といった虐待はそれ以前の問題で、あってはならないことです。
教師をしていた頃、家庭の事情で遅刻や欠席しがちな児童を毎朝迎えに行っていたこともありましたが、そうしている間にも他の児童は登校しており、目が届かないところで新たなトラブルが起こることもありました。
こうした新たな問題を生まないためにも、家庭の強力は大切です。
しかし、どうしても家庭の中で、最低限の子どもの世話ができない、あるいは虐待など深刻な問題がある場合は、必ず学校に相談してください。
学校からの書類にしっかり目を通し、提出期限を守ろう!
最近は、台風による休校連絡や天候による運動会の有無、不審者情報といった重要な情報をメールで保護者に知らせるシステムが普及していますが、日常的な学校からお知らせやお願いはまだまだ紙面での連絡が中心です。
先生から子どもへ渡されるお手紙は、一枚いちまい隅々まで目を通し、提出期限があるものは必ず守りましょう。
そうすることで、先生が余計な質問に答えたり、提出を催促する電話をしたりする手間を省くことができます。
宿題も同様、低学年のうちは毎日保護者がチェックしてあげた方がよいでしょう。
高学年になると、徐々に子は親から自立していくので「宿題やったの?」「やったよ」という口頭確認だけになりがちです。
しかし、時には本当に宿題が終わっているのか、ノートやドリルを開いてチェックしてあげてください。
その際、提出し忘れている宿題や書類等がないかも同時に確認すると良いでしょう。
こうした一つひとつの丁寧な確認が担任の先生の仕事の助けることにつながるのです。
先生への適切な連絡方法はこれ!
学校からのお手紙を読んでもわからない点が出てきた時や、お友達関係で気がかりなことがある時などは、放課後に学校へ電話して担任の先生に尋ねるのがいちばんシンプルで、文字による誤解も生じにくいです。
連絡帳を使って質問する方法もありますが、先ほども述べた通り、1クラス三十数人いる中で先生が一人ひとりの質問に筆談で答える時間はなかなか取れません。
小学校の連絡帳は、園時代のお帳面のように先生が丁寧に子どもの様子を書いてくれるものではないのです。
しかし、いきなり学校に電話するのは気を遣うという方や、電話よりも面談して先生と話したいという方は、以下のような書き方をオススメします。
- いつもお世話になっています。(導入の挨拶は簡単に済ませる)
- 〇〇の件で、お話ししたいことがあります。(要件を端的に書く)
- 先生のお時間のあるときにお電話いただけますか。(文字での返信を求めず、電話でお願いする)
- 先生とお会いしてお話したいので、都合のよい日時を教えていただけますか(面談の予約を取る)
お友達関係のトラブル、保護者の理想的な対応とは?!
学校生活を送っていると、ときにはお友達とトラブルになることもあります。
先生がそのことに気づき、学校内で解決してくれることがいちばんですが、子どもは先生ではなく、親にだけ悩みを打ち明けるということもあります。
そんな時は、まずは落ち着いて子どもの話を聞き、事実関係をはっきりさせることが重要です。
その際は、子どもの話をすべて鵜のみにし、カッとなって相手の子の親へ直接連絡したり、訪問したりしてはいけません。
子どもの話は主観的なもので、相手や周りの子の話を聞けばまた違った一面が見えてくることがあるからです。
特にいじめのような深刻な問題については、家庭だけでの解決は困難になります。
お友達との深刻なトラブルについては、まずは担任の先生に連絡し、関係したお友達全員の話を聞いてもらうようにしましょう。
そして、その結果、明らかにされた事実関係と共に、今後の具体的な対応策については、電話かできれば面談して担任から教えてもらってください。
もし担任の先生が、打開策を提示できない、あるいは提示した目標が実行に移されていないと感じた場合は、上司にあたる学年主任や、管理職(校長、教頭)に訴えてもかまいません。
担任を飛び越えて突然校長先生に相談するのは、よほど担任が信頼できないと感じた場合以外は避けた方がよいでしょう。
先生と保護者は子どもを健やかに育てるパートナー
平成19年以降、公立小学では団塊の世代の大量退職もあり、教師の平均年齢は下がり続けています。
時には子育て経験がなく、保護者よりもずっと若い先生が担任になることもあります。
若い先生は元気で子どもとの距離感が近いというメリットもありますが、授業力やクラス運営については経験不足な点は否めません。
こうした若い先生の力不足な点を補うためには、やはり保護者と先生との円滑なコミュニケーションは重要です。
そして、保護者は、家庭の役割として子どもには基本的な生活習慣を身につけさせ、提出書類や宿題のチェックは怠らないようにしましょう。
また、家庭だけでは解決できないような深刻な問題やトラブルが起こった際は、連絡帳を適切に使い、電話や面談等で先生と連絡を取り合い、解決に向けて動きましょう。
先生と保護者は、子どもの健やかな心をはぐくむパートナーです。
「子どもの健やかな成長」という共通の目的を持ち、尊重し、協力し合えるのが理想の姿だと思います。